忍者ブログ
TW3「エンドブレイカー!」のキャラブログ。 PBW、TWと言った単語に興味のない方は回れ右推奨。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 待ち望んだ言葉は来た。
 ……後は。




 その言葉は、漸くと言って良い時間を掛けて吐き出された。
「退院できそうです」
 医師は正直、不本意そうだった。
 青年がしつこく食い下がり、宥め賺した結果であった。
 回復自体は順調で、立って歩くのには支障はない。日常生活において問題にはならないだろう。
 問題となったのは、別のもの。
 けれど青年は満足そうに、帰り支度を始めた。
 彼にとってそれは、自分で為さねば意味の無いものだから。



 ……息を、吐く。
 此処へ来る時に身に付けていたものは、凡そ服とは呼べない物と成り果てていた。
 此処へ来る迄の記憶は、本音を言えば所々飛んでいて辻褄が合わない。
 握り締めた手に、爪が食い込む。
 彼に尋ねれば応えただろう。――『負けただけだ』、そう、静かに。
 唯、生を諦める事が出来なかっただけだと。
 其れを生き恥と呼べば、怒る者が居る事を彼は知っている。
 帰る場所が在る、迎えてくれる人が居ることを、恥ずかしいなどと彼は思わなかった。
 それを諦める事はとても、出来そうになかった。
「……」
 彼は、顔を上げた。
 背に向けた窓から風が呼ぶ。
 目の前の扉は黙ったまま。
 けれど、
「……どうぞ」
 彼は少し笑って、声を掛けた。
 ノックが聴こえるほんの少し前だった。
「……」
 きぃ、蝶番が鳴って、おずおずと扉が開いていく。
 ふわりと揺れる淡い金髪は相も変わらず甘そうに、柔らかく。
 戸惑った色の灰桃の双眸は、少し間を置いて上向いた。
 すっかり身支度の整った彼の姿を、瞼に収めて。
 彼女は嬉しそうに目を細めた。
「もう良いの?」
「これ以上寝てたら、逆に病気になる位にはな」
 冗句めいて。
 二人は揃って口角を上げた。
 疾うに、知っていた。
 彼らが同じ様に、非日常に身を染めて日々を生きている事。
 互いの瞳には何も――そう、悲劇も喜劇も幸福すらも、映ることが終ぞ無かった。
 そうして彼がまた、非日常の世界に帰って行く事も。
 内緒話の様に病室に持ち込んだ、彼の黒鞘の太刀は、良く手入れされて其処に在った。
 手元に戻るとは思っていなかったが、幸運にも再び手にする事が出来たと、彼は笑う。
 舞い散る風の中で、彼女の小さな手が伸ばされた。
 少し硬い銀糸の髪に、ぽふりと。
「……無事に、おかえり」
 一瞬の瞠目。
 天藍映した静謐の瞳が、勝気に躍る。
「ただいま」
 そうして、やっぱり知ってたんじゃねえか、と。可笑しそうに彼が呟いた。



「――なあ。名前は」
 風が呼んでいる。
「……ロレッタ。ロレッタ・マリーナフカよ」
 相対する彼女が微笑む。
 つい、と泳いだ手が、淡金の髪を一房すくいあげて。
「……Enchante」
 そう、怖いくらい他人行儀に、金糸の甘い花香に口付けた彼は、リウェス・グラファイトと名乗った。



   [終]

 
PR
この記事にコメントする
Name
Title
Color
E-Mail
URL
Comment
Password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
カレンダー
03 2026/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30
最新CM
ブログ内検索
最古記事
(01/01)
(01/01)
(07/06)
(07/07)
(07/14)
プロフィール
HN:
crow
性別:
非公開
注意書き:
使用されているイラストは、株式会社トミーウォーカーのPBW『エンドブレイカー!』用のイラストとして、レクサスPLが作成を依頼したものです。イラストの使用権は発注者に、著作権は各イラストマスター様に、全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します。

Template "simple02" by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]