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TW3「エンドブレイカー!」のキャラブログ。 PBW、TWと言った単語に興味のない方は回れ右推奨。
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 名も素性も知らぬ仲。
 何一つ聞かないまま進んだ遊戯。

 ひとつだけ、知らない振りをしていたことなど。
 さして問題にはならない。



 気だるい微睡みを繰り返している間に、陽は昇っていった。
 小さな病室の朝は瞬く程。
 治療の為に術師や医師が慌しく出入りして、終わる。
 人心地つき、ぼんやりと眺めた窓は相変わらず半分だけ開いて、はたりとカーテンが波打った。
 ――昨日の、あれは。
 夢だったのだろうかと、つと彼の口を突いた言葉。
 思い返せば短い時間の事。
 浮かされた夢だと思えば、そうと言えない事もない。
 ふらりと身体を起こし、冷えた床に裸足が下りた。
 軽く視界が揺らいだけれど、昨日よりはまともに動く身を窓辺へ運ぶ。
 音を立てない様に開け放った四角の出口。
 良く晴れた空に雲が流れる。
 駆け抜けていった風は緑の匂い。
 花の香りなど、何処にもなくて。ただ涼しげに、夏の一歩手前の空気が髪を浚うだけ。
 ゆっくりと誘われる様に彼は身を乗り出し、窓枠を乗り越えようとして――

 ……ぽこん。

 俯く形になった後頭部に、軽い音がぶつかった。
「こら。まだ治っていないのだろう?」
 やや怒った様な、けれども柔らかい声が降る。半ば反射的に顔を上げれば、見開かれた双眸が間近に。
 陽が落とす木漏れ日に、色を濃くした桃の瞳。くるりとはねた淡金の髪はゆらりと触れる。
 暫くそうして黙った後。
 嬉しいのをどうにか押し込めた、拗ねた様な表情で彼の方が口を開いた。
「――未だ時間じゃ、ねえよ」



 やがて昨日と同じ様に扉の方へ回った彼女が、やっぱり同じ様にベッドの傍の椅子に腰掛けた。
「少し早めに来れそうだったし、昨日の君の様子だと、退屈そうに外に出て行きそうだったから」
 思い切り先読みされていたのを歯噛みする様に。
 彼はふらりとベッドに寄って、眉間の皺はそのままにぽすりと横になる。
 手を伸ばせば届く距離に居る彼女の膝には、先程頭を叩かれた物が抱かれている。
 折り畳まれた薄い木の板。
 開けば正方形になるだろう其れには見覚えがある。
「……チェス?」
 指差して尋ねれば、うん、と頷いた彼女はそれを卓に広げた。
 鞄から小さな箱がふたつ。
 恐らく駒が入っているだろうそれも、盤の隣へ。
「出来る?」
「一通りは。……強くは無い」
「私もだよ。カードより張り合いあるでしょう、身体も動かせるし」
「結局腕しか動かさねえだろ」
「君の場合は首も動くよ。悩むと首が傾いてくるから」
「……」
 昨日の勝負ですっかり読まれているらしい。
 眉を顰めた彼の顔に、楽しそうに笑った彼女が、チェス盤に駒を置き整えていく。
 さわりと、梢が振れて。
 一際強い風が、部屋に吹き込み渦を巻いた。



 半刻も過ぎた頃。
 慎重に動く手は、駒を進める。
 盤面で睨み合う王には、双方まだ手が届かない。
 顰め面の青年に相対して彼女の笑みは揺るがなかった。
「結構強いね」
「兄貴はもっと強い」
「……比べる相手、間違っているんじゃない?」
「いつか勝つから良いんだよ」
「あ、ビショップ貰った」
「……」
 動揺した隙に、黒の僧侶は連れ去られ。
 盤面は一層寂しくなっていく。
 黒がやや形勢不利。
 それでも青年は涼しげな顔で駒を繰った。
 二手、三手、四手。
 チェックを掛けては返して、立ち並ぶ駒を取って。
 やがて彼女は、気付いた。
「……ステールメイト、か」
 自手に動かせる駒が無い。
 所謂引き分けだ。
 完全に「勝ち」に持っていくのが不可能だと判断した時点で、青年が進め方を変えた。
 勝てないのならば負けなければ良いだけの事だと、言わんばかりの。
「大した負けず嫌いだね」
 彼女はそう言って、少しも残念そうに見えない顔で肩を竦めた。
 ふと時計を見遣れば、無情な針が刻んだ時間は約束を疾うに越えていて。
 どちらが言い出すでもなく、散り散りになった白黒の駒を小箱へ選り分ける。
 かたりかたりと無機質な音。奏でる指先は反してふわりと柔らかい。
 仕舞い終えて、無言で箱を突き出した青年を、彼女は少し驚いた様に見つめた。
 蓋は一応被せられてはいたけれど、隅が妙に浮いている。
 元の箱より高くなった端は、彼の大きな手ででなければ掴めないだろう。
 更に突き出された箱を両手で受け取った彼女の目に、ようやく合点が入った色が見えた。
 箱を放した途端に彼の顔は逸らされてしまったけれど、微かに窺える頬が赤い。
 照れている、と言うよりは、バツが悪そう、と言った方が正しい気がした。
 多分。
「……此処までは頑張って仕舞ったのね?」
 彼は身体ごと向こうを向いてしまった。
 蓋をそっと外せば努力の跡。
 揃えようとした形跡は見えるが実を結ばなかったらしく、申し訳なさそうな駒が斜めに積み重なっていた。
 傷が痛んだのだろうかと考えてはみたけれど、恐らく違う。
 元々、こういう作業が苦手なひと。
 彼女の手で難なく向きを整えた駒はきちんと箱の中に鎮座し、もう一度蓋を重ねられ鞄の中へと。
 そうして背中を向けたままの彼の後ろに彼女は立ち。
 昨日の様に優しく、その銀糸の髪を指で梳いた。
 不思議そうな青藍の瞳が振り向いて、かちあう。
「嫌だったかい?」
「……嫌、じゃねえ、けど」
 戸惑った声色は存外幼い。
 可笑しそうに微笑んだままの彼女は手を止めない。
「男の頭撫でて楽しいかよ」
「だって、可愛いんだもの」
「……可愛くねえよっ」
「可愛いよ、子供みたいで」
「子供、じゃねえ!」
「解っているよ?」
 君は、唯傷付いただけの騎士だもの。



   [続]

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使用されているイラストは、株式会社トミーウォーカーのPBW『エンドブレイカー!』用のイラストとして、レクサスPLが作成を依頼したものです。イラストの使用権は発注者に、著作権は各イラストマスター様に、全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します。

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